元学校司書のおぼえ書き

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中高生に推し~平安時代がわかる歴史小説~

歴史小説は数多く出版されていて

本屋でも結構なスペースを占めていますが

江戸時代のものが多く、次に鎌倉時代室町時代

といった感じで平安以前の歴史小説は非常に少ないです


そんな中で、平安時代藤原氏一族を

人間味あふれる人物像で描いた

永井路子の平安朝三部作は貴重な歴史小説です

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望みしは何ぞ【電子書籍】[ 永井路子 ]
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「王朝序曲」は藤原氏北家の隆盛を築いた藤原冬嗣

「この世をば」は藤原氏全盛期の藤原道長

「望みしは何ぞ」は藤原道長の息子である、藤原能信(よしのぶ)


最後の「望みしは何ぞ」の主人公を

藤原道長と倫子の息子で平等院を建立したことでも知られる藤原頼道でなく

同じく藤原道長の子どもでも倫子より格下とみられていた明子との

息子である藤原能信にして、

能信の鷹司家(母倫子)の兄弟である

頼道らへの屈折した思いを描いたことで

面白さが増しています

読み手にとっても藤原氏への理解が

深いものになると思います

 

文庫本のあとがきによると永井路子

平安時代の歴史書大鏡」を読み

能信を主人公に据える着想を得たそうです

 

この本を三谷幸喜さん脚本で

大河ドラマにしてほしいと個人的には思っています


「この世をば」とか「望みしは何ぞ」

という題名を見ると

昔の文体で書かれているのじゃないか

読みにくいのじゃないかと

中高生は思うみたいなのですが

歴史小説の中では

どちらかというとライトノベルよりに

読みやすいと思います


それにしても、この三部作

今は電子書籍か図書館で借りて読むしかない

本屋さんにきらしてはいけない本だと思うんですよ

他に代りがないのですから

中央公論社様、どうか再販してください


その他の本も

この間までほとんど買えなかったのですが

先日本屋さんに行ったら

文春文庫さんから

鎌倉時代を描いた直木賞受賞作「炎環」

「流星 お市の方」などが再販され

平積みされておりました

永井路子さんは今年の1月に亡くなられ

追悼記念ということで再販されたようです

 

永井路子さんは大正生まれで

作家になる前は小学館に勤めていて

川端康成の担当をされていたこともあるようです

 

追悼記念の文春文庫さんの再販された中に

私が最も再販してほしかった

「美貌の女帝」は残念ながらありませんでした

美貌の女帝というのは奈良時代

未婚で女性天皇となった元正天皇のことで

持統天皇の子どもの草壁皇子元明天皇の間に

生まれた娘になります


この本を読むと権力が

蘇我氏から藤原氏へと移ったいきさつが理解できます


奈良時代を描いた歴史小説も珍しいですし

女性の天皇を主人公にした歴史小説も珍しい

しかも面白い

妹と結婚した長屋王と恋仲だった設定になっていて

韓国だったら絶対にドラマ化されている

と思う作品です

文春文庫様、なぜ再販してくれなかった…

元正天皇が美貌というのは設定ではなく

史実のようです


永井路子奈良時代が舞台の本で

今本屋さんで買えるのは

「氷輪」で鑑真について書かれた本ですが

上の三部作や「美貌の女帝」が

完全な小説であるのと違って

鑑真や歴史上人物への考察が文中に入ってきて

大人向けで少し読みづらいかもしれません


学校の図書館では

再販されていない本でも

古本で買える本であれば

事務や経理の方に相談すると

買って下さることがあります

 

が、年々細かくなる日本史を

勉強中の中高生のためにも

是非再販してもらいたいものです

 

大学受験のための

日本史一問一答も世界史一問一答も

私が受験したころよりずいぶん分厚くなっていて

あんなのを見ると

子どもに「もっと勉強しなさい」とか

言えなくなります

 

せめて詰め込むんじゃなくて

楽しく理解してほしい

 

今の子どもは

本当に本を読む暇がなくて気の毒だし

こんなのはよくないと思います

 

gakkoushisyo.hatenadiary.com