元学校司書のおぼえ書き

学校図書館のこと 本のこと そのほか思いつくまま

読まずにいるのはもったいない歴史小説

それまで知らなかった歴史上の人物の話を読んで

「こんな人がいたんだ」

と驚くことがあります

 

その驚きは恋が始まるときと似ています

遠い記憶だけれど…


歴史小説の中の人物にの惚れこんでしまうと

歴史小説がフィクションだということを

忘れてしまいます


フィクションだとわかっていても

その人物像が本物のその人として心の中に残り続ける


本としての印象よりも

「人」の印象が残る歴史小説


アマゾンで桁違いの星がついているのを見ると

今更私が紹介するまでも無いとも思うのですが

あえて紹介させてください


中高生という若い時期にこそ

読んでほしい「大人の仕事」が書かれています

 

 

壬生義士伝浅田次郎著 新選組藩士 吉村貫一郎

壬生義士伝は他の二作品と比べて脚色の濃い作品

吉村貫一郎は実在の人物ですが

ほとんどフィクションのようです

それがわかっていてものめりこんでしまうのは

「そうあってほしい」と思う

人間の姿が描かれているから


壬生義士伝」は泣ける、とにかく泣けます

家族のために頑張って働いている人が読んだら

たまらないと思います

自分のために泣いてしまうのかもしれない


映画の方も泣かされました

本があまりにも良かったので

映画は見ないでおこうかとも思いましたが

中井貴一は役者ですね


ストレスがたまっていて

泣いてすっきりしたい方にも

おすすめです

 

「峠」 司馬遼太郎著 長岡藩家臣 河合継之助

峠は昨年映画化されましたね

主演は役所広司でした

まだ見ていません

最近、後からいつでも見れると思うと

映画館まで足を運ぶことが少なくなっています

後で、映画館で見れば良かったと

後悔することもあるんですが


15年以上前ですが

18代目中村勘三郎さん主演で

ドラマにもなりました


幕府側として

新政府軍と死闘の末に亡くなった河合継之助

地元長岡藩での人気はあまりないそうですが

「峠」は当時、幕府につくか新政府につくかで

苦しい立場にあった藩の事情なども見えますし

司馬遼太郎の作り上げた河合継之助は

格好良いです

 


今年3月、屋久島に行った帰りに鹿児島に立ち寄ったのですが

新政府を相手に戦った西郷さんは

鹿児島ではまだ生きているかのような人気ぶりでした

対して大久保さんは本当に…

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鹿児島 K10カフェより銅像を見る

 

鹿児島はなにか

日本の中の独立国のような雰囲気がありました

 

かって秘密主義で

薩摩に行って無事に帰ってくる人がいないことから

行方知れずの帰って来ない人のことを

「薩摩飛脚」と呼んだと

確か、司馬遼太郎の本で読みましたが

そんな時代がまだ続いているような独特の空気を感じました

 

私の親類が居て

宮崎にはよく行くのですが

おとなりの県でも雰囲気がぜんぜん違うと思いました

 

時間がなかったのでタクシーを利用したのですが

これは良かったです

ほんの短い距離を乗っただけで

観光を頼んだわけでもなかったのに

どのタクシーの運転手さんも

いろいろ説明して下さって楽しかったですね

お支払いをした後に降りてきて

「ここで撮るといいんだ」と言って

写真を撮って下さった方までいました

人が暖かくて

住みたくさえなりました

 

「落日の宴」 吉村昭著 勘定奉行 川路聖謨

明治維新平安時代の人がビルをたてたような

奇跡のような国家建設ですが

その明治維新を成し遂げた若者たちを育てたのは

250年続いた徳川幕府

徳川幕府があっての明治維新でもありました

 

徳川幕府が終焉を迎える前

各国の黒船に幕府は苦悩していました

その時、勘定奉行の職にあり

日露和親条約を結んだのが

川路聖謨(かわじとしあきら)です

 

アジアの歴史を見ると

日本が植民地にならずにすんだのは

偶然ではない

と思います

 

明治政府が躍進する前には

徳川幕府で各国と難しい交渉にあたっていた

川路聖謨のような

幕臣の努力も下地としてあったのでした

 

吉村昭は史実を忠実に書く作家として

定評がありますが

読み手の方も、救いのない事実に

向き合わなければいけないこともあり

重い読後感が残ることもあります

 

が、吉村昭は読むべき本を

読まなければいけない本を

多く残した偉大なる作家です

 

中学校の図書館に異動した時

吉村昭の本が1冊もなくて

呆然としました

 

人気が無くても置いておかなければいけない本

読んでもらう努力をしなくてはいけない本

というものがあると思います

 

本屋に無いのは

商売ですから仕方が無いとしても

図書館に無いのでは司書がいる意味が

ないのではないでしょうか

 

「さよなら、田中さん」で

中学生作家として著名になった

鈴木るりかさん

その文章の上手さについてはここでは語りませんが

その著作「さよなら、田中さん」の著者紹介に

好きな作家 吉村昭

と書かれているのを見て

流石、と思ったのでした

 

こんな中学生が居るのですから

司書の方も覚悟が要ります